お客様にとって着物は「素材?」「想い出?」

今日はお客様にとって(そして私達にとって)、リメイクに出される着物や帯は「素材なのか?」「想い出なのか?」という問題に関して改めてカナタツ商店の考え方をまとめたいと思います。
昨年電話でのお問合せでお客様に「着物をマットにして良いんですか?」と 問合せを受けたので、その時に私達なりに考えてまとめた見解からブログをスタートさせます。

「考え方は人それぞれですが当店は勧めません。」
お客様にお預かりする着物(もしくは帯)を「素材」として考えるのか? または、 「想い出」として考えるのか?

私のスタンス3つの理由からご案内致します。

(其の一)
一つ目は私達は以前のブログでも綴った通り「古い布には心がある」というスタンスで着物(及び、着物にまつわる物語)に対して敬意を持ったリメイクを信条としています。
私達はリメイクなさる着物や帯ににお客様の思い出や歴史を重ねて、その想いに対するアンサーとしての着物リメイクを提供したいと考えています。
私達は単純に「素材」としてのみで着物を見ていない点。

(其の二)
二つ目は「素材」として捉えても着物生地はマット向きでは無い点。
マット用の生地と比べればやはり弱いという事は言えるので着物リメイクとマッチするアイテムとは考えません。
この件に関しては着物生地を厳選する事や製作上フォローをする事でいくらか緩和されますがやはりマット向きの生地ではないです。
(実際ご自宅でご使用のマットと着物生地を比べて頂ければ判りやすいと思います)

私達は適材適所を意識した着物や帯のリメイクを推奨しますので着物生地の適性を理解せずにリメイクする事は私達は勧めません。
(其の三)
そして大きいのは三つ目のポイントです。
着物の格式などを考えた時に「家紋」の入った礼装/準礼装の着物を踏む事はその家のご先祖様まで踏むような重さを私は感じるし、来客などでは着物を踏む行為に違和感を感じる人は少なくないだろうと思う点。
人目に触れる使い方をするならこの視点は非常に重要だと思います。(もちろん私達のスタンスでは格式が低い着物でも賛成しかねますが…)

以上の理由で当店では受け付けはしませんがお客様が着物を踏む事に抵抗が無ければ縫製店等でマットにリメイクされても良いと思います。

それは仕事を受ける作り手の自由ですし、お客様の自由です。
着物を「ただの素材」と見るか、「想い」や「伝統」と見るかという見解の違いだろうと思います。

このスタンスは明確にしたいと思いますが、当店はお預かりする着物・帯(と、その歴史)に敬意を持った仕事をしたいと考えますので「着物を踏む事は強く否定します。そのようなリメイクは勧めません。」
その着物に込められた想いと歴史を思い出して下さい。
そして、家紋に込められたご先祖の想いと家族の歴史を考えてみて下さい。
そのお気持ちを源流に着物リメイクという作業を考えれば、誰かが顔をしかめるようなリメイクにはならないと思います。

【参考:日本家紋研究会HPより】
『…識字率の低かった時代は、誰もが一目で見分けられる家紋は、苗字以上に重要でした。
家紋は社会の最小単位である家族・一族、つまり血縁者が共有するシンボルマークです。
独自性を表現する上で、苗字の次ぎに重要なものであり、
われわれ日本人が繋いでゆくべき大切なバトンであり伝言だと思います。…』

当サイトでは良く綴りますが「着物リメイク」というのは日本の服飾文化の一つの潮流です。
だからこそ着物は必ず反物に戻すことが出来るように仕立てられているのです。
最近突然生まれたカルチャーではないです。

以前からアジアの工場等で着物リメイクを請け負う会社も出てきていますが、柄や状態の異なる1枚1枚の着物に向き合う事で無駄無く美しく仕上がる着物リメイクを効率重視で着物の柄やシミを考えず決まった箇所に型紙を当てるだけで躊躇なくはさみを入れるような仕事や、今日ご紹介したような日本の服飾の歴史の文脈をなぞる事無くマットなどにして踏んづけたりするようなリメイクでは無く、世代間で引き継ぐことを前提とした日本の服飾文化(着物の歴史)の一端を継承する想いで日本人らしい感性で着物(と付随するご家族の物語)への敬意を大事な核にしてより現代的でお客様にとって利便性の高いリメイクを私達は目指したいと思います。
だからこそ私は当サイトではリメイクの話の導入で 着物の話をよく書きますし、柄の意味を説明しますし、 家紋の事にも触れますし、着物の持つ文化的な深みに触れる事を大事にしています。
そして、それぞれの着物や帯が持つ家族の歴史と家族の想い、家族の思い出を大事にしたリメイクをしたいと思います。

…「言われた通りにやりました。」
そんな機械的な着物リメイクを提供したくて私達は独立したのではありません。
私達は「着物」=「お客様の想い出」、そう受け取ってリメイクに取り組んでいます。


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